愛のない部屋
「……峰岸は知っていたの?」
「うん。滝沢さんに結婚すると聞いた時に、アメリカに行くとも告げられた」
「どうして私には昨日まで黙ってたのかな……」
タキの結婚の話を聞いたのは、峰岸と知り合う2ヶ月以上前。
どうして峰岸には話して、私には……
まるで秘密にされていたみたいだ。
「おまえ、やっぱ滝沢さんのことが好きなんじゃねぇの?」
「……」
またぶり返された話。
「まだ婚姻届を出してないってよ」
「だからなに?」
峰岸を見上げる。
ああ、峰岸って背が高いんだな。
足が長いのか…羨ましい。
「おまえが泣きつけば滝沢さんは結婚を取り止めてくれるかもよ?あの人はおまえに甘いからな。好きなら好きって、言えよ」
「……」
「どんな卑怯な手を使ったってさ。好きなら奪えよ」
峰岸をにらむ。
そして間を空けずに、頬を叩いた。
痛々しい音が響いた。
「あ…」
峰岸の頬を、叩いてしまった。
「……」
「……」
視線を逸らしてネクタイの結び目をぼんやりと視界に入れる。
「タキのこと、好きじゃない」
恋愛感情なんて存在しないのに。
「どうして奪うとか!タキの幸せを壊すようなことを言うの!」
今の私にぴったりな言葉は、"ヒステリックな女"だね。
八つ当たりして、ごめんなさい。