愛のない部屋
それって。
「私のためじゃなくてタキのために。私の力になるってこと?」
「おう」
なんだか笑えた。
峰岸の思考も、タキ中心。
私たちはタキを崇拝しすぎだ。
「アンタこそ、タキに惚れてるじゃん」
「まぁな」
「否定しないなんて、キモッ」
「うぜぇ」
「アンタの方がウザい」
「……」
「……」
峰岸の方を見る。
真剣な表情。
だから代わりに、私が頬を緩めた。
「ごめんありがとう」
いっきに早口で告げる。
「……」
峰岸からの返答は、なかった。
ありがとう、ごめんなさい。
大人たちはその2つを頻繁に口に出しているだろう。
社会人となった瞬間に社交辞令が言えなければ、人間関係なんて上手くいきっこない。
でも今、峰岸に伝えた言葉は本心で。
少しは素直になれたかな。
だからこそこのままじゃ駄目だよね。
「この家、出てくよ」
峰岸があからさまに顔をしかめた。
「行く宛あんの?」
「社会人なんだし、部屋くらい借りられるよ」
「……」
「友達でもない私たちがこのまま一緒に生活してることはおかしいでしょ?」
「そうだな」