愛のない部屋
私に謝らせるタイミングを与えずに、峰岸は話題を変えた。
「エレベーターの中で言ってた噂、俺も耳にした」
頬が腫れていなくて良かった……。
呑気に特製の野菜ジュースをストローで飲む峰岸を見て安堵する。
「女って本当に面倒だな」
「同感」
「おまえも女だろ?」
「その辺の女の子と一緒にしないで」
「やっぱおまえ変わってる」
「まぁね」
一緒にされるくらいなら変人扱いされる方がマシだ。
「噂の原因、私だよね」
「ん?」
「私が朝寝坊したからアンタが送ってくれたわけでさ。迷惑かけたよね」
「別に」
――ごめんなさい、
今日こそ相手の目を見てきちんと謝らないと。不本意であっても好意に甘えたのは自分だから。
「ま、気にすんな。俺はどうでも良いから」
「どうでもいい?」
「俺とおまえが付き合っていることになってても構わないよ」
「え?」
いきなり何を言い出すのでしょう。
「誰に勘違いされても困るわけじゃないし。それはおまえも同じだろ?」
「……」
「もう恋なんてしないんだろ?」
静かに告げられた言葉に、小さく頷いた。
私は恋をしない。
誰もが気軽に発してしまう言葉だけれど、そう誓ったのだ。