愛のない部屋

マグカップが2つ運ばれてきて、その一方を峰岸が飲んだ。

ミルクティーも頼んだんだ。


「滝沢さんには口が裂けても言えないけど、結婚イコール幸せなんて今はもう思えない」


峰岸の本音。


「私も同感」


結婚して子供を授かることが女の幸せだと、どれくらいの人が実感しているのだろう。

現実は様々な問題が渦巻いている。


「でも滝沢さんは、みんなが羨むくらいの幸せを掴むことだろうな」


「そうだね」


タキは誰よりも幸せになる。そんな根拠のない確信を持っている私も峰岸も、タキには幸せになって欲しいと心から願う。


「沙奈、」


「……」


聞き慣れたタキではなく、峰岸の声で名前を呼ばれた。

意味が分からない。


くすぐったいな。





そして更に紡がれた言葉に、

唖然とした。




――沙奈。



名前を連呼され、








「俺と付き合いませんか?」










確かに峰岸はそう言ったのだ。



理解に苦しむ。
今の会話の流れからどうして付き合うことになるのか訳が分からなかった。


ただ怖い程、峰岸が真剣な表情をしていたから視線を逸らしてしまった。

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