愛のない部屋

「色々と篠崎から話を聞いてたんだよ」


――シノザキ?


一瞬、誰だか思い出せなかった。

ファミレスで話題に上るとは予想していなかった、直属の上司だったから。


峰岸との噂のことを真っ先にわざわざ耳打ちしてくれた世間話が好きな陽気な上司。



「篠崎さんと親しいの?」


「同期だから」


篠崎と峰岸が同期……。
そう言われれば歳は同じくらいだ。


「篠崎さん、私のこと話してたの?」


「うん」



余計なことを……?
整った顔で爽やかな笑顔を浮かべる篠崎を思い出す。仕事面については尊敬するが人懐こい性格は苦手だ。


「篠崎、色々な情報を握っててさ。仕事のことじゃなくてプライベートなことまで知ってるわけだよ」


「噂とか信じる人みたいだね」


「というより、みんな篠崎に人生相談するらしいよ。アイツは信頼に厚い男だから」



私には軽そうな男にしか見えない。
秘密と言いつつ、黙っていられずに言いふらすタイプなんじゃないかな。


「おまえのこともよく話題になってて」


「マイナスのことで?」


「おまえにとっては嫌かもしれないけど。色々な奴から好意持たれてるとか、言ってたぞ」


< 56 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop