愛のない部屋
帰り道、また口論になった。
「どうしてアンタに支払って貰わなきゃならないわけ?」
「ファミレス代くらい別に良いだろうが」
進歩のない関係。
「嫌なら、次はおまえが払え」
次もあるのか。
「言われくてもそうするわよ」
私を置いてきぼりにして歩く、峰岸の背中を少し強めに叩く。
「なんだよ?」
振り向きもせずに強い口調で問われた。
「頬、痛まない?」
「……」
今朝の話をいきなり持ち出したせいか、峰岸は足を止めた。
大通りから離れた裏道なので通行人はおらず、私たちが立ち止まっても迷惑にはならない。
「私、素直じゃないし可愛くもないから。強がりしか言えないけど」
「……」
無反応の方が喋りやすい。
大きな背中に向かって告げる。
「タキがいなくなること、ショックだった。みんな私を置いて遠くへ行ってしまうから、またなんだ…って、絶望した」
小さな声でもよく通るそんな静寂が包む闇の中で、街灯だけが私たちを照らす。
「所詮、アンタも私を置いていくんだと思ってる。だから私に出て行って欲しくなった時は、遠慮なく言って」
そしたら心を閉ざして出て行くよ。