愛のない部屋
封筒には宛名も差出人の名前すら書かれていなかったが、女性からのものだと容易に想像がつく。
真っ白な封筒の片隅に、季節外れの小さなタンポポが描かれていた。
「中身は見ちゃ駄目だよ?」
一応、忠告。
なんて付け足すくらいなら、初めから私に頼むなよ。
思わず上司を睨む。
「興味ありませんから」
手紙の差出人も内容も、私には関係のないこと。
「峰岸のことも興味ないの?」
分かりきっている答えを求める篠崎は意地悪だ。
「暇じゃありませんから」
「恋には時間は関係ないよ?どんなに忙しくても、恋人のためなら無理してでも時間を作るもんさ」
「貴重なご意見、ありがとうございました」
皮肉たっぷりに言う。
「もうすぐ始業時間ですから、失礼します」
「よく働くね~」
篠崎の横を素早く通り過ぎる。
「責任を持って、渡しておきます」
もちろん中身も見ません。
「頼んだよ」
要領よく仕事をこなし、得意先の評判も悪くない。社内では篠崎を目標として頑張っている人たちも多い。
仕事面では私も尊敬しているけど、あの減らず口はなんとかして欲しい。