愛のない部屋
似た者同士だから好きになった、という理由から目を逸らして"本気の恋"だと、錯覚してしまうことがなによりも怖い。
こうして峰岸の傍にいることだって、
彼はアノヒトとは違う。
そう心のどこかで認めているからだろう。
私たちは、出逢うべきではなかった。
「出逢う、べきじゃなかったよ」
そう声に出す。
『そうかなぁ?』
呑気なタキの声が機械を通して伝わる。
「タキが急な仕事でいつもの場所に来れなかった夜、なにを話そうとしていたの?」
『この唐揚げ、マジ美味い』
「……」
数分前に
昼休みを利用してタキに電話を掛けた。
口をもごもごさせながら電話に出てくれた。
電話片手に愛妻弁当を頬張っている姿を想像して笑った。
「毎日、手作りのお弁当?」
『そうだよ。羨ましいか?』
「私も誰かの、手料理が食べたいな」
後、3ヶ月。
タキがアメリカに行ってしまうまでの猶予。
何度も自分に言い聞かせたが、寂しい思いは消えない。
『毎日、峰岸の飯を作ってるんだって?』
「朝食だけね」
残業の後、峰岸は外で食事を済まして帰宅する習慣らしく、食事を一緒にとるタイミングは朝だけだ。