愛のない部屋

『良い感じじゃないか』

「意味が分からない」


またこの展開。
相手がタキでも、疲れるよ。


『この世にさ、無駄なことなんてないと思えるようになった時に』


「うん」


『峰岸と出逢わなければ良かった、そんな風に思ったことを後悔するかもしれない』



そんな風に……、
思える日が来るとは考えられない。



『沙奈はさ、慎重になりすぎ。もっと日常生活を気楽に送った方が良い』



誰もが他人に生き方を示唆されるのは、嫌だと思う。でも私は嫌な思いをせず、素直にタキの言葉を受け入れた。



「気楽にか……」



タキのアドバイスに無駄なことなんてひとつもなくて、私のためを思って言ってくれていることが分かるから素直に受け入れられる。



そして両親と呼べる存在を失った今、タキを家族の一員だと錯覚しそうになる。



「ねぇ、タキ」


『なぁに?』



可愛い返事。婚約者さんにも上手に甘えているのだろう。

私には見せない顔を、彼女には見せる。


その当たり前のことを「嫌だ、」と思ってしまうことは、家族をとられてしまうことへの嫉妬なのか。

< 70 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop