恋の仕方を教えてくれますか?
邂逅
昼休み、麻里恵は私のデスクを人差し指で二回叩いて「行くよ」と言い放った。

返事をする間もないくらい麻里恵はスタスタと早歩きで先に行ってしまった。

昨日のLINEでは、“明日はお弁当を作って来る”と打ち合わせてある。だから今日の私たちのランチの場所は社員食堂だ。

エレベーターフロアまで行くと、麻里恵がエレベーターを待っていた。

「ねぇ…さっきの話で怒ってる?」

私は麻里恵の隣に立って、恐る恐る麻里恵にそう尋ねながら、まだ押されていない昇ボタンを押した。

「当たり前じゃん…何あいつ!!」

麻里恵はフロアに響かないように静かに静かに怒っていた。そして、突然声のトーンを下げ、口角に笑みを浮かべながら榊さんの真似を始めた。

「なーにが『今日から二ヶ月間社員達の能力を見させて頂きます。その後は改めて私が人事を再配置し、四月に新しい人事を発表します。』だよっ!!意味がわからない!!」

麻里恵が真似をするように、榊さんは確かに私たちにそう言ったのだ。その話がされたときもやっぱりオフィス内は静まり返っていて、社員のほとんどが、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。

そこでまた更科総務が榊さんに疑問を投げかけた。

“希望する課以外に配属される可能性があるということですか?”と。その問いに対しての榊さんの答えは“イエス”だった。

榊さん曰く、今は営業課がほとんど出払っているため、後日改めて文書にて提示と説明があるとのこと。

「まぁ落ち着こうよ。リストラはないって言ってたし、私たち事務がどうこうって話でもないと思うし…」

「そうだけどさっ!あいつの話しが長いせいで今日の残業確定なんですけ…」

言い終わらない内に麻里恵は口を閉じた。その代わり、麻里恵の眼は私越しに何かを捉えたようで、大きく見開かれた。

「麻里恵?」

麻里恵の顔を覗き込むと、麻里恵はわざとらしく咳ばらいをして大きな声で言い放った。

「ごめん、気分悪くて酔いそうだから階段で行くわ!」

それと同時にエレベーターが到着する。呼び止める間もなく麻里恵はフロアから立ち去ってしまった。

「もう。」

麻里恵の行動を不審に思いながらもエレベーターに乗り込んだ。

エレーベーター内の鏡の中の自分と目が合ってからすぐ、自分の後ろに榊さんがいることに、ようやく私は気が付いた。
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