mirage of story
「............カイム.....私を、討て」
一瞬、闇に囚われた身体が完全にロアルに戻った。
ロアルは意識が現実に戻ったその一瞬、カイムをしっかりと見つめる。
父の慈愛が籠もった優しい目。
ロアルはそんな瞳でフッと笑い、目の前に居る愛しい息子に言った。
私を討て。
つまり、私を―――父を殺せ。
短い言葉。
だが、深すぎる意味が籠もられた悲しすぎる言葉。
そしてもっと悲しいことに、その一言でカイムは父の伝えたい全てが判ってしまう。
それはカイムが考えていた今これからやらねばならない結論と、ぴったりと一致していた。
ッ。
だからカイムは、息子は無言で頷く。
頷く拍子に揺れる紅い髪のパサリッという乾いた音だけが聞こえた。
"...............何処までも、愚かなことよ"
―――グアァァアッ!
通じ合った親子の間を、黒き竜の冷たく刺さるような声と咆哮が裂く。
その咆哮は衝撃となり、地を揺るがした。
"お前を喰らうは後からだ。
それよりも一刻も早くこの忌まわしき世界を我が手で壊す。それが我の念願、使命。
我が念願が果たされれば、コイツとの契約も完全に果たされる。
なれば即ち我がお前を喰らえぬ理由も無くなろうぞ"
「.......そうはさせない」
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