mirage of story
(繋がりがあるからこそ、人は生きていける。
人と人との繋がりは弱い人を強くする唯一の糧だと、私は思うよ。
..........この気持ち、きっと貴方には判るまい)
"そのような気持ち、判りたいとも思えぬわ"
ロアルと闇のやり取り。
行き交う言葉は両者の耳へと届くが、その場に居合わせるもう一人―――ロアルの声が聞こえぬカイムには闇の一方通行の呟きにしか聞こえない。
「人は弱いからこそ愚かだからこそ、強くなるために固く繋がり合って生きている。
俺達よりもずっと強く気高い存在として生まれた貴方には、一生を掛けても判らないことです。
例えいつか貴方が、判りたいと望んでも」
だが、カイムにはまるで聞こえているようだった。
闇に囚われ表に出すことも叶わない父の声が。
周りから見れば、闇の一方的な呟き。
だがカイムはちゃんと、闇と父の会話の中に居た。
(カイム..........)
「...........ッ、...ッ.....ッ」
心の中でカイムの名を呼ぶ。
もう遥か昔に捨てたはずの、父という立場で息子の名を。
すると、どうだろう。
闇に支配され身体の自由を完全に奪われているはずのロアルの口が、微かに言葉を刻む。
声にはなっていなかった。
だが、確実にロアルは今彼自身の意志で言葉を発した。
カイム。
口元の動きは言葉を刻む。
もう随分と呼んでいなかった。
だけれどずっと、心の先頭にあったその名前。
「――――――カ....イム」
今度は、声になった。
今度はしっかりと、はっきりとカイムの名を呼ぶ声が聞こえた。
意志を表すことは愚か言葉を発することすら叶わないはずのロアルの声。
カイムはその声に冷静に耳を澄まし、闇は驚きに漆黒の目の玉を丸くする。
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