mirage of story











「やぁ、名乗るのが遅れてしまったね。

私の名はジス。
反乱軍の名の元で私の元に募ってきてくれた者達を仕切らせて貰っているしがない老人さ。

以後お見知りおきを頼むよ、若き魔族の隊長さん」



ライルが小声で尋ねた問い掛け。

その問い掛けにシエラの答えを待つライルだったが、答えたのはシエラではなくジスだった。



ッ。
ジスは何歩か前に進み出て、シエラとライルと距離を縮める。

そして嗄れた、でもがっしりとした手をライルへと差し出した。









「警戒することはない。
数刻前は敵同士であれど、今は同志。

........それに君は、ルシアス様にとってなくてはならない存在だからね。我等にとっても君の存在は重大だ。
そう、昔も今もね」





フッと微笑む笑みは穏やか。

別に警戒をしていたわけではない。
けれどジスという人を窺っていたライルは、その笑みを見て差し出された手を握った。


嗄れた手。
ライルは手の平に伝わる剣だこの固い感触にジスがどれほどの力量であるかを実感し、それからじんわりと伝わる温かさに少しだけホッと心を撫で下ろす。














「お初にお目にかかります。

俺は―――私は魔族ロマリア国の先鋭部隊隊長、そしてこの戦での指揮官をしていました。
名はライルと申します」





人間側の大将と魔族側の実質の大将。
戦場でこの両者が顔を合わせるなど、修羅場以外には考え難い。

だが今やこの戦場は黒き竜の手によって、脆く崩れ去る世紀末の舞台に成り果てた。
今この世界の上では、もはや敵も味方も魔族も人間もその区別は無かった。




握り合わされた手と手。

ライルはお辞儀をし、至極丁寧に自分の名を述べた。










「..........君と会うのは、初めてではないんだが。

まぁ、随分と昔のことだ。
君が覚えておらんのも仕方がないかな?」



「え.........」








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