mirage of story
ハハッとわざとらしく、そして自嘲気味に笑うジスの顔。
その顔は笑っているせいで普段よりも深く皺が刻まれ、細められた目は穏やかに優しそうだ。
「俺が貴方と?」
嗄れたジスの声。
その言葉。
だが言葉を向けられた本人であるライルは、その言葉を予想だにしていなくて問い返す。
ライルは頭の中に記憶を巡らせる。
思い返すはルシアスと再会を果たした先刻の鮮明な記憶。
憎しみに囚われひたすらに人間を恨み戦ってきた、長く暗い記憶。
そのどちらの記憶の中を探してみても、このジスという老人と出逢った記憶はない。
さて、どうしたものだろうか。
そう思い凝視をすると、僅かだが何処からか沸々と湧き上がる懐かしさ。
「ジス。
彼は昔、城で私の世話を見てくれていた。
覚えてない?
よく貴方と城の外に遊びに抜け出して怒られたものだけど.......もう、随分と昔のことだものね」
「ジス―――、っ!」
シエラの、ルシアスの言葉が滞る記憶へのアシストとなってライルの脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。
「貴方があの時のジス様........すみません、俺気が付かなくて」
蘇る記憶の中のジス。
ライルの中に在った彼のイメージは、凛々しくて威厳高き尊敬できる大人。
何より幼い頃で止まってしまっていた記憶故に、もっと彼は若かった。
なのに目の前に居るのは、嗄れた老人。
時が経ったとは言うものの、自分の知っていた彼の像とはあまりに掛け離れていた。
「仕方がないさ。
私もこんなに年老いてしまったのだから、情け無いことだがね」
自分を嘲るように、ジスは笑った。
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