mirage of story
「あのカイムという男が居ないのか........」
ライルの感じた違和感。
それは彼女の隣にいるはずの、自分ではないもう一つの存在。
シエラとしての彼女の隣に在るはずの紅の存在。
それが、無い。
シエラの口からではなく、ライルの口から零れた言葉。
カイム。
その人の名に、ジスとそれからジェイドの瞳が曇るのが分かった。
「.........まずはそのことから話さなければいけないね」
意味深なジスの言葉。
シエラの顔は何か良くないことを想像し、蒼白した。
何かあったのか。
それを知るは恐らく二人だけ。
蒼白するシエラをジスとジェイドは何か陰を含ませた瞳で見つめ、ライルと何も知らないであろう集まった周りの兵士達はただ見つめるしか出来ない。
「..........彼は此処には居らん。
彼は我々とは離れ一人、別の任務を果たすために違う場所に向かった。
彼にしか出来ないその任を果たすためにね」
暫く沈黙した末、ジスが小さく息を吐き出しそれから静かに言う。
静かな物腰。
それが、今は何だか逆にシエラの胸騒ぎを大きくさせる。
「此処には、居ない?
で、でもカイムは無事なんですよね!?
カイムは、彼は今何処に居るの?教えて下さい....っ」
「...........。
―――姫様。
彼が今、無事であるかという確証は私には無いのです。
私も所詮は人。
悔しながら目の前に在ることしか見えんのです。
ですが......ですがただ、彼から貴方に伝えてほしいと言付けを預かっております。
姫様、これを受け取って下さいますな?」
ッ。
静かな物腰のジスが懐から取り出すは、半分に折り曲げられた一枚の小さな紙切れ。
それはちゃんとした便箋ではなくて、本当に何かの切れ端のような薄汚れた紙切れだった。
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