mirage of story
彼の言う、けじめ。
それは一体何に対してのけじめなのか。
シエラには過去の自分と今の自分との狭間で揺れていた中途半端な自分自身への、そしてライルとの過去と今では相対する関係への付けるべきけじめがあった。
だが、彼には何がある?
カイムには、付けるべきけじめなどあっただろうか?
少なくともシエラには、それが見付からない。
カイムにも自分のように過去と今の自分の存在と決別する理由が、果たしてあったというのだろうか?
自分が知らないだけだったのだろうか?
文字の続きを目を走らせようと、視線を映すシエラは考える。
"貴方に言いたいことも、言わなくちゃいけないことも沢山ある。
本当は自分の口からその全てを言いたかったけれど、その時間が無い。
........でも、これだけは此処で言っておくよ。
俺は貴方が誰であろうとも、貴方を人として尊敬している。俺は貴方のことが、この世界の中で一番大切で一番好きだ。
近くに居れなくても、ずっと貴方が幸せであることを祈ってる"
視線を映した見開きのもう半分の文字。
小さく綴られた文字はそこで一旦切られ、数行の間隔を空けて最後の一文章が綴られる。
"シエラ、今までありがとう。
―――さようなら"
そこで途切れた文章。
さようならの言葉に、続く言葉は存在しない。
黄ばんだ紙、黒く走る文字。
ッ。
その上にシエラの瞳から零れた数滴の涙が、じんわりと黒い文字を滲ませる。
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