mirage of story
闇に魅入られ飲まれた哀れな親と子。
血を分け合い、誰よりも愛したはずの息子を父は斬る。
自らの全てを賭けて愛し守った息子を、その手で傷付けている。
こんなはずではなかった。
こんなはずではなかったのに、どうして?
父と子は心の中で声にならない程に嘆く。
どうして斬り合わねばならぬのか。
どうしてこんなことになってしまったのか。
どうして、何故?
狂わされた―――自らが狂わせてしまった運命に、その運命に揺さぶられた全てに詫びる。
どうして自分達は、こんな状況に全てを陥れてまで生きているのか。
生きる道を選んでしまったのか。
「いいんだよ、俺はもう十分に生きたから。
―――もう終わりにしよう、父さん」
"...........ッ"
穏やかすぎる息子の声。
哀しすぎる声。
もうすでに人を失った父を、息子はまだ父さんと呼んだ。
最後まで、最期までロアルのことを自らの父親として彼を父さんと呼んだ。
......カ....イム―――。
―――カイム。
人を失った父の口から息子の名は声には出ない。
もう人としての、ロアルとしての意識は無い。
".............まだ残って居ったのか、ロアル"
ザンッ!
剣を片手にした闇色の瞳から流れるは涙。
残された、ロアルの感情。
流れる涙にロアルという身体を完全に取り込んだはずの闇が、涙に戸惑い怒り狂うこともなくただ呆れたように笑った。
それは何処か潔い、諦めのようにも見えた。
ッ。
カイムの言葉にほんの一瞬だけ動きを制したロアルの身体を、一突きにカイムの剣が貫いた。
.