mirage of story
"グ.....ヴハッ.....!"
闇とロアル、一体化した二つから同時に声が洩れた。
それからピタリと動きは止まった。
カランッ。
刃に貫かれ動きの止まったロアルの手から滑り落ちる剣の音。
戦いに握り締められていたその柄はまだ生温かい。
地面に落ちた一つの剣は、持ち主を失ったせいかやけに哀しく虚しく見えた。
鋭く鈍かった刃の輝きは、もう失われていた。
「.........すまなかった。
カイム、私の息子よ。
―――大きくなったな」
剣に胸を貫かれたロアルは息も切れ切れで、もう話すことなど出来ないはずだった。
苦しいはずだ。
話すことなどもう叶わないはずだ。
そもそもロアルの意思はもうそこには無いはずだ。
だが、動きを止められ完全に戦意と自由の無くなったロアルの口から最期に零れたのは―――至極はっきりとした澄んだ声だった。
人としてのロアルとしての、そして父としての言葉だった。
"...........我はまた、人如きにこの世界を追いやられるのか――――"
ロアルは闇の竜との契約者であれど、カイムのように竜との契約者の力で生かされている命ではない。
つまり、ロアルはカイムのようにその命を契約で縛られも守られもしていない。
闇に奪われた身体であっても、強大な竜の力を得た身体であっても人の身体であることには変わりない。
強大な力でその命を奪える者が今まで現れなかっただけであって、人の命の要である心臓を突かれればロアルは生きては居られない。
まだ完全でなくロアルに依存しこの世界へと復活した闇の竜は、依存していた契約者も交わした契約も失ってその力も失われる。
そうなった後のこの戦いの―――この世界の終焉となるはずだった事の末路を、事の本当の当事者である闇でさえ簡単に想像が出来た。
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