mirage of story
「........どうしたの、皆そんな顔をして。
あ、やっぱり私何処か変なのね?
もしかして何か塵でも付いてる?
それとも髪が乱れてるかな?でもね、それは急いで此処まで来たから仕方がなくて―――」
見入ってしまったのは.....見取れてしまったのはライルだけでは無いようだ。
現れた彼女は、いつも見慣れた彼女とは少しだけ違ったから。
派手すぎずシンプルでスラリとしたドレス。
手入れされた髪はフワリと風に舞って、良い香りとオレンジ色の光を振り撒く。
いつもより一層に、今日のそんな彼女は女性らしい。
とても、綺麗だった。
「いいや、本当に何でもない。
そんなことよりも、ほら。
皆が君のことを待ち詫びていた。
皆、君の言葉を待ってる。
俺はもう済んだから、今度は君の―――シエラの番だ」
思わず彼女に見取れてしまった自分にハッとし恥ずかしくなって、ライルはそう言い彼女の意識を自分から逸らす。
きっと今の自分は顔が赤くなっているだろう。
それについてを言及されでもしたら。
"君が綺麗だから、つい見とれてしまって"だなんてそれこそ照れてしまって言えない。
「.........何だか今日のライル可笑しいわ。
あ、緊張しているのね?
駄目よ、これからはずっとこの国の王様として皆の前に立たなくてはいけないんだから―――」
ライルを怪訝そうな顔で見て、それから気が付いたように笑って視線を彼から自分達の周りを囲む広場一杯の民へと向けた。
ッ。
民に視線を向ければ、一様に自らに注がれる沢山の視線。数え切れない瞳。
そのことに今更ながら気が付いた彼女は、ライルに向ける言葉とは裏腹にピタリと固まる。
それも笑って言う表情で顔を上げたそのままに、一瞬時間が止まったかと錯覚するようにピタリと。
「どうした?」
「.........駄目、私が緊張してきちゃった」
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