mirage of story
「そんなことじゃ駄目だろう?
これからこの国の上に立つ者として、シエラも民の前に立っていかなくちゃならないんだからな?」
ピタリと動きを止めて何だか急速に緊張し表情を強ばらせるシエラに、今度はライルが笑ってたった今彼女に言われた言葉を返す。
とはいえ。
この全ての注目が集まる状況、緊張しない方が難しい。
煌々とした希望に満ち溢れた視線は、二人の王への期待の眼差し。
「えっと.......私から言えることは―――何もありません」
ライルの言葉にコホンッと軽く咳払いをして、集まる民達に向き直る彼女。
真剣な顔。
ライルの隣の彼女の―――もう一人の王の王として発する第一声を聞き逃すまいと全員が耳と意識を傾ける。
「何も無いって―――。
この場に及んで何も無いってことは無いだろう?
これからのこととか決意とか、言うことなら色々........」
「そう、言いたいことは沢山あるの。
でもねそれは全部、きっと皆とも貴方とも同じだから」
フフッと笑って、彼女は「そうでしょう?」と周りを埋める人々一人一人へと隈無く目を配った。
ぐるりと一周。
それはたったの数秒だったけれど、この場に居る数え切れない数の人々皆と目があった気がした。
「.............でも、一つだけ。
皆も知っていると思うけど、私には魔族としてそして人間として生きた過去がある。
魔族と人間、今ではもうそんなこと関係無くなってしまったけれど―――それでも、過去は消えない」
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