mirage of story
自力に思い出すにしても、やはりそれは今までと変わらず叶わないのだろう。
この違和感ある曖昧な記憶の断片。
元々肝心なところは思い出すことが出来ないのだから、完全に消え去ったところで何も支障は無いはずだ。
ただ、今までと同じ生活に戻るだけ。
違うのは、彼等の記憶の中から今でさえ消えかけている薄らとした記憶が今度は全部消えるだけ。
その記憶の存在自体を、忘れてしまうだけ。
「私は――――」
沈黙を破って静かに声を発したのはシエラ。
さぁ、どうする?
沈黙の中で、姿は見えない竜達は答えを黙って待つ。
「私は...........忘れたくない。
思い出せなくても、大切な記憶だってことは分かるの。
.....その人はきっと、私にとって大切な人だった。
その人が誰だかどうしても思い出せなくて、思い出そうとする度に胸が苦しくなるけど―――それでも分かる。この記憶は、とても温かいわ」
試すような言葉。
それが一体何を試していて、竜達がどんな答えを求めているのかはやはり判らなかった。
だからシエラは、思ったままに言う。
何の裏も無い、真っ直ぐな自分の中に在る言葉を。
彼女の言葉は凛々しかった。
ライルはそんな彼女の隣で、同意し頷いた。
".........そうか。
それならばよいのだ"
フッと、竜達が笑った気がした。
竜達の求める答え。
その答えと彼女の言葉に、相違は無かったようだった。
心を通して伝わる竜達の感情の中に、僅かだが喜びを感じた。
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