mirage of story





 
 
 
辛くても苦しくても母さんや村の皆との思い出が―――シエラにとって全ての想い出が詰まった故郷という存在があったから頑張れて来れたのに。








(私は帰る場所を喪ったこれからも今まで通り頑張れるのかな?
母さんや村の皆の仇――――取ることが出来るのかな?)



なのにその心の支えは今はもうない。

あまりに呆気なくこの世界から存在を消してしまった。
あれほどまで確かな存在だったものほんの一瞬で跡形も無く消え去った。



.........。
その事実をじわじわと感じてシエラは不安に駆られる。
あまりに衝撃が大きすぎて初めは湧いてこなかった実感は一秒一秒現実味を増していき、事実が本当に実感出来るようになったその時には不安の波が押し寄せて止まなくなっていた。




だが不安に背を向け逃げ帰る場所もシエラにはもう無くて最早前に進むことしか出来ない。
途中で投げ出すことは許されない。

母さんのため。
命を失ったみんなの為にも。










(そして.....)



シエラはそっと後ろを振り返りまだ眠りの中にいる仲間の姿を見る。







(それに私を全力で支えてくれる、私のことを仲間だと思ってくれるカイムのためにも)  



私は、前に進まなきゃいけない。
もう止まることも戻ることも私には出来ない。


シエラは心の奥に込み上げる不安を押し込めて、頭の中の靄を吹き消すようにグッと背伸びをした。







(この哀しみを消し去ることは出来ない。
だけどこれからを生きていくために気持ちを入れ替えないと。
私は精一杯生き抜かなきゃ。
母さんたちの仇をとって私が皆の元に還るまでは、絶対に)









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