mirage of story
「っ!?
あんまり引っ張ると転ぶから――――っ!うわっ」
ドサッ。
そんなカイムの心配は言ってる傍から的中。
カイムの手を引いていたシエラが何かに躓き転んで、必然的に手を掴まれていたカイムも道連れになる。
迷って引っ張られて、そして転んで。
カイムにしてみれば踏んだり蹴ったりである。
「ったぁ....」
「ハハ......言ってる間に転んじゃったな。
ほらシエラ、大丈夫?」
服に付いた土を払いながら立ち上がり、言わんこっちゃないとちょっと呆れつ笑いながら手をシエラに差し伸べる。
カイムは立ち上がり汚れた服を手で払いハハッと笑う。
カイムは優しい。
今まで出逢った人の中で一番というくらいに心の優しい人だった。
差し出された手にその優しさ改めて感じて、シエラは転んだ反動でまた少し痛み出した傷付いた身体に染み渡るような気がした。
「....ありがとう」
差し出された手に掴まる。
「よいしょっと」
クイッ。
手に掴まり引き寄せられ顔と顔がフッと近付く。
目が合う二人。
その体験したことの無い至近距離に思わずシエラの顔が火照る。
ただ偶然の出来事だが、何だか無駄に心臓の鼓動が速くなっていくのを感じてシエラはどうしたらよいか判らずにフッと目を逸らした。
ドキドキ。
こんな感覚は彼女にとっては初めてでこれが何であるかは判らずに動揺する。
だがそんな彼女の動揺に鈍感なカイム君は全く気が付くことは無く、彼女を引き起こして汚れた服を手で払ってやる。
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