mirage of story
「ッ!
どこかに逃げるとか、そういう方法は?」
老人の言葉に、シエラは思わず声を張る。
シエラもカイムと同じ。
このまま黙って見ているなど、そんなことは出来ない。
そんな想いだった。
「........此処に居る者の中には、老人や子供が多く居ます。
その者たち全てを連れて、遠く離れた土地まで逃げ延びることは難しい。
我々には一人でも逃げれぬ者が居るならば、その者を見捨てて逃げるという考えはありません。
────私達は、仲間を見捨てるくらいなら皆で死ぬことを......選びたいのです」
「───それが我々の生き方なのです」
老人のその言葉は、シエラとカイムの中に悲しくも強く響いた。
何も罪のないこの人たちが、こんな悲しい生き方を強いられるなんて。
この世界は、哀し過ぎると思った。壊れている、そう思った。
「.........ですが、それでは魔族たちの意のままになる。
........罪のないあなたたちが、殺されるのをただ待つのが、この世界の現実なんて────俺は、納得出来ません!」
カイムは、このままおとなしく魔族たちの意のままになる。
それだけは嫌だと思った。
何もしないまま。罪のない人たちが死にゆくのを、ただ黙認出来るほどカイムの心は冷えてはいない。強くなんかない。
そこまでこの世界の現実に、馴れてしまうことは出来なかった。
少しでも可能性があるのなら、その可能性に懸けて運命にさえ抗い続ける。
この街の人々が、皆共に同じ道を歩むことが自分たちの生き方だというようにカイムにとっては、これが自分の定めた生き方だった。