mirage of story







ロアルはエルザに軽蔑の意がこもった視線を投げ掛けると、シエラの方へと視線を戻した。








「.............その指輪は我が国家の宝。魔族が授かりし素晴らしき力。

お前如きの薄汚い人間が持っていて良いものではない」 



それからロアルの雰囲気は一変し、先程よりも一層にシエラ達を見下すような威圧的な態度になる。

彼の背負う闇の色が、より濃さを増した気がした。









(この指輪が、魔族の宝?) 


宝?
それも、魔族の?

シエラの頭の中でロアルの言葉に対して、疑問が浮かぶ。









(.........何でそんな指輪を、私が持ってるのよ)



分からない。





「......じゃあ、そんな大切な指輪を何で私なんかが持っているの?
そんなの、おかしいじゃない!」




この指輪はシエラが記憶を失う前から持っていた唯一の物。唯一本当の自分を辿る手掛かり。

その指輪が、人間の敵である魔族にとってのそんな大切な指輪だなんて。
信じられるわけがない。






「何故おまえがその指輪を持っているかだと?
.....そんなこと、こちらが知りたいぐらいだ。

その指輪は四年前の戦乱の時に我が国の姫の持ち物だった品。
その姫はもう死んだ。
だからその時から指輪の行方は分からなくなっていた」



そう言うと、忌々しそうにシエラの指輪を見つめた。





「.......あの姫、最期まで我の邪魔をしおって。

だが、まだ私は指輪に見離されてはいなかった。今日あの森でお前と出会わなければ、指輪は見つからなかったのだからな。
指輪が我々を引き寄せたのだよ」




ロアルの指輪を見つめる瞳は、飢えた獣のような狂気の光を帯びていた。



 




 
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