mirage of story
シエラは背筋がゾッとするのを感じた。
これは恐怖。
あるいは、それよりもっとずっと質の悪いもの。
「――――さぁ、娘。指輪を渡すのだ。
どうせ盗むか拾うかした物だろう?惜しくはあるまい」
「......ッ。
この指輪は私がずっと前から持っていた物。
変な言い掛かりつけないでっ!」
シエラはロアルの明らかに自分を見下した視線に、正直苛立ちを感じた。
それにロアルの言う通りこれが魔族の姫が持ち去った、水竜の指輪とかいう価値ある指輪だったとしよう。
この指輪は、四年前にシエラがエルザに助けられるその前から持っていたもの。ということは四年前以前から持っていたことになる。
そしてロアルの話によると、指輪が姫によって持ち出されたのは、シエラが指輪と共にエルザと出会ったのとほとんどそれと同時期。シエラはエルザと出会った時はすでに指輪を持っていたのだから、話の辻褄が合わない。
結果、ロアルが嘘をついて指輪を騙し取ろうとしているとシエラは判断した。
.......。
しばらくシエラとロアルの睨み合いが続く。
「もういい。これ以上の話合いは無駄なようだ。
残念だよ、お前達がそこまで愚かだったとは」
ロアルの冷たい声が睨み合いの沈黙を破った。
「最後にもう一度だけ聞こう。
こちらに指輪を渡す気はないのだな?」
「絶対に渡しては駄目っ!
渡したら世界が壊される。
だってこの男は」
ッ。
「お前は黙っていろっ!」
ロアルは何か続けようとしたエルザの言葉を掻き消す。
ボォォッ。
そして、エルザに向かい炎の魔術を放つ。
まるで何か重要な秘密を知っている彼女を口封じするように。
ロアルは彼女の言葉を力で捻し伏せる。
「危ない!」
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