mirage of story
 
 
 
 
 
 
情けない声で叫ぶが、前を行く青色の影には届かない。





(此処ではぐれるのは、まずいよ!絶対に!)




この人混み。
一度はぐれたりしたら、相当の強運の持ち主でない限り出会えない。

そうすれば任務にだって支障が出る。



つまり、ライルに怒られてしまうという訳である。
つまりつまり、減俸。
それに加えて罰掃除なんて可能性も。

考えるだけで恐ろしい。


彼のどうでもいい未来の展開は置いておくとしても、やはりはぐれてしまうのはまずい。


人混みに逆らって、前に進む。
だけど、全然前には進まない。

進むのは焦る気持ちと、足の縺ればかり。










「た....たいちょ────」




もう一度、遠ざかるライルの姿に叫ぶキトラ。

だが、その叫びは縺れる足に負けて前へと倒れる体が遮った。






ドサッ。





「ぐげっ!」



倒れ込む音と、何とも情けない呻き声が重なる。
行き交う人混みの中、キトラは派手に転ぶ。







「ったぁ.....」



転び、道に倒れる格好の彼。
言っては悪いがどう見ても彼が一介の軍人であるとは、誰も思いもしない。




――――。
そんなキトラを、行き交う人々は迷惑そうに少し避けて歩く。
誰も声は掛けてくれない。

......結構人って冷たいな。
人々が避けて不自然に空間の出来た人混みの中で、彼は染々と感じてしまう。





―――。
ッ。

手すら差し伸べる気配のない人々に世間の厳しさを感じつつ、いつまでもこうしているわけにもいかない。
倒れた体に力を入れて彼は立ち上がった。



立ち上がった時、膝に痛みを感じて見てみると膝が擦り剥けて、血が出ていた。
砂が傷口に付いて、地味に痛い。

もう踏んだり蹴ったりである。







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