mirage of story
 
 
 





 
 
「あ、そいえば隊長は.......」



足の痛みに少しだけ涙を滲ませつつ、ハッとしてさっきまで遠くにちらついていたライルの姿を追う。








「居ない」



さっきまで見えていたライルの姿は影さえ見えない。
見えるのは、こちらをチラチラ見て通りすがりの見知らぬ人の顔ばかり。

その視線だけが痛々しく彼を刺す。




―――。
そんな状況に気が付いて、キトラの額に冷汗が流れた。

ツゥッと伝う冷汗は、キトラの顔色を朱から青へと変える。












「どうしよう、俺」



キトラの口から零れた呟きは、騒めき合う人々の声に掻き消される。
当然彼の呟きに耳を傾けるものも、足を止めるものも一人さえ居ない。

ポツリ。
流れる人の波の中で呆然と立ち尽くす彼を、人々は実に迷惑そうに見た。

だがキトラは今、その視線に気が付く余裕を持ち合わせてはいなかった。





.
< 475 / 1,238 >

この作品をシェア

pagetop