mirage of story
〜7〜





覚えているのは、目の前に現われた蒼き水の竜の姿と驚くロアル。
そして自分の後ろで横たわるエルザの姿。



それ以外、シエラは何にも覚えていなかった。






ただシエラの意識が戻ったその時にはもうロアルの姿はなく、煙上がる丘にはただ静かに雨が降っていた。

残っていた炎も、冷たい雨に消されていく所だった。






そして、もうその時にはエルザはこの世には居なかった。
ながい、永い眠りについていた。

別れの言葉も、告げぬまま。



降る雨の雫石が、炎と共にエルザというシエラの大切な人の命の燈を消していた。








あぁ、どうして。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。

絶望に嘆くシエラ。



その時、どこからかレイリスの花びらが風に乗り舞ってきた。
はらりはらりと舞う白い花びらは、まるで雪のように綺麗だった。

















.....サァァッ。


丘を吹き抜ける風でシエラは目が覚める。



あぁ、此処は現実。
あの日から、もう一年後。

どうやらあの日を思い出しているうちに、眠ってしまっていたらしい。
空を見上げれば、辺りは日が暮れかけていた。




シエラの目には涙の跡がうっすら残る。





(あの時.....私にもっと力があれば、母さんは死ななくて済んだかもしれないのに)



後になって知ったのだが、エルザの好きだったレイリスの、あの時雪のように舞っていたレイリスには花言葉があった。

それは、別れ。
そんな意味だった。




このことを知り、シエラは今になって思う。


 




 
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