mirage of story
〜8〜








『────キトラ。
俺は、此処を出ていく』


......え?

あの日兄貴は俺の前に静かにやってきて、確かにそう言った。
あまりに唐突すぎて頭の中が真っ白になって、思わず変な声が出た。







.......何言ってるんだよ、兄貴ってば。
また俺のことを、そんな風にからかったりして。

でもそんな分かりやすい嘘、俺だって判るんだから。
兄貴らしくない.....そんな判りやすい明らかな嘘を、どうして?



そう、兄貴の言葉を冗談だと思って笑った。
それからパッと兄貴の様子を見たんだ。



――――。

.....横目に見えるはずの兄貴の顔は絶対に笑っている。
またいつものように俺をからかう笑みを浮かべて俺を見ている、絶対そう思ったのに。







兄貴。
貴方は、笑ってはいなかった。

今までに見たことのないくらいに、まるで兄貴じゃないみたいに真剣な顔をしていた。
冗談を言うような、そんな顔じゃなかった。









『キトラ、すまねぇ......。
今回の話はな、冗談で言ってるつもりも嘘で言ってるつもりも無い』




兄貴の真剣すぎる顔。
その顔を見た瞬間に感じたいつもと違う異様な空気に、兄貴の言葉が追い討ちをかける。




――――出て行く。
真剣な兄貴から出た言葉の意味を、俺は問い質した。

決して言葉の意味が理解出来ない訳じゃ無かった。
きっとあの時俺は、その意味を理解したくなかったんだと思う。







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