mirage of story
〜1〜






陽が落ちかけて、遠くの空に月が顔を覗かせる頃。

また一人。
少年が、留まることを知らぬ人の波に溜め息をつく。




聞けば今日は年に一度の、この街の祭りらしい。
普段でさえ人が多い街にそれ以上の人が押し掛けて、街の中は陽の光が消えても活気の光は消えることなく煌めき続けていた。










「────奴等.....どこにも居ない」




街の騒めきから逃げるように駆け込んだ路地裏。

そこで、目的のものが一向に見つからずに途方に暮れるライルは呟く。

目的のもの。
それは、人間という名の獲物。
それは彼にとっての復讐すべき、憎しみそのもの。


目的は決まっている。
だからこの街に潜伏しているという情報を得て、この街アトラスまでやってきたというのに。

なのに奴等は、見つからない。





.......。

それどころか、今ライルにはまた一つ捜すべきものが出来て、やらなければならないことの多さに自然と体の力が抜けた。









「.....キトラの奴も見付からないし。
はぁ、疲れるな」



人込みの中、ずっと自分の後ろを付いてきていたはずのキトラも見付からない。


つまり迷子。
この人込みの中なので分からないでもないが、キトラも一応、それなりの訓練を受けてきた一介の軍人。

それが迷子とは―――正直、隊長として指導者に立つライルは溜め息を隠せなかった。



ッ。
そんな沸き上がる溜め息をどうにか押し殺し、ライルはグッと伸びをして、もうすぐ完全に沈もうとする太陽を見上げた。






「もうすぐ夜か」



薄暗く空がだんだんと闇に溶けてゆく。
光が、闇へと変わる。







「夜になれば、奴等の動きは鈍るはず。

────待っていろ。
必ず、仕留めてやる」





 
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