mirage of story
戦うことは、あまり好きじゃない。
人を傷付けるのは、嫌い。
だけど大切な者を守るためなら、大切なものを失わないためなら何だって出来る。戦える。
―――――。
一瞬だけ瞳を閉じて、それから彼はその紅の瞳をバッと見開いた。
その開かれた瞳にあるのは、戦うために命を掛ける強き獣にも似た鋭い光。
普段は彼の奥底の部分にひっそりと仕舞ってあるものが表側へと出る。
「────斬る」
剣を振りかざし向かってくる相手に、カイムは短く感情のない声で呟いた。
ッ!
と、同時に風の如く相手へと切り掛かる。
「なっ!?」
ザッ。
相手は唐突に目の前から消えたカイムに驚きの声を上げる。
.......。
ザンッ!
だが数秒も経たぬ後、その声は言葉になる前に鈍い音によって遮られた。
それは身が引き裂かれる断末魔の音。
そう。
敵である男の口から言葉が零れるその前に、カイムの剣が男の胸を貫いていた。
「!?」
肉を裂く鈍い音。
その仲間の断末魔の音に、驚きを見せる魔族達。
――――。
そしてじっとりと辺りを染める紅い雨。
ッ。―――ッ。
降り注ぐ紅い雨の中。
カイムは冷酷なまでに冷静に他の魔族の兵達を振り返り言葉を放つ。
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