mirage of story
「..........他にはもう居ませんか?」
誰に向かって言うでもなく、彼は血の滴り落ちる剣身を見詰めて静かにそう問い掛ける。
その声の冷たさは彼に今剣を向ける者達全てに、悪寒に似た寒気を与えた。
辺りは、暫く沈黙に包まれた。
「......い、一旦退くぞ」
沈黙を破るのは、敵の誰かが放ったその一言。
誰が放ったのかは判らない。
だが彼はそんなこと微塵の興味も無いので気には掛けなかった。
――――。
その言葉を合図に、残りの兵達が皆退いていくのが分かった。
辺りから自分を取り巻いていた殺気が消えた。
(..........とりあえず、終わったか)
去り行く敵の姿を遠目に、彼は胸を撫で下ろす。
ッ。
その途端、急に目の前に影が落ちてそのまま地面へと崩れた。
「カイム!?」
ドサッ。
砂埃はもうすっかり晴れて辺りを見渡せる。
地面へ倒れるその音にまだ敵と剣を交わしていたシエラがその方を振り返り、そして彼の事態に気が付いて声を張り上げた。
「ッ」
地に伏せるように倒れる彼の姿。
早く駆け付けなければ、そんな衝動に駆られ彼女は反射的に相手の剣を押し返す。
ザンッ。
そしてその押し返す力そのままに反動で身体をよろけさせている敵へとそのまま剣を突き立てた。
「ア....ア゙ァ......」
敵の兵は己に突き立てられた剣に驚く暇もなく、短い呻き声の後に絶命した。
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