mirage of story
その紅はまるで血に飢えた鬼の如く闇夜に映えて見えた。
――――。
血に染め上げられる彼を照らし出すように、立ちこめていた砂煙は止んで月明かりが彼のその姿を露にする。
「ッ.....」
次第に露になっていく、そのカイムの姿に彼を仕留めようと狙いを定めていた敵は言葉を詰まらせた。
その姿を見た魔族達は皆、年端も行かないこの人間の少年に―――底知れない程の恐れを抱いた。
「.....来るなら、早く来い。
一瞬で片付けます」
いつもの彼のものではないような低い声が空気を震わす。
ッ。
ゆっくり、だが確実にそう言う声と共に相手へとにじり寄る。
「や、やめろっ!」
自分へと静かに近付く血で紅く染まった彼の姿に抱いた恐れは、今まで彼を狙っていた剣先を僅かに横へ逸らせる。
最早魔族は恐れから戦意を失いかけていた。
――――。
ザンッ!
その相手の僅かな隙を、今度は彼の方が見逃さなかった。
彼の鋭く煌めく剣の刃は、一寸も狂うことなく相手の胸を貫いた。
彼に躊躇いは無かった。
.......。
それと同時に相手の身体がまるで糸の切れた人形のように力を失う。
それはその者がもう生きてはいないことを意味していた。
ッ。
カイムは動かなくなった人形と化したそれから静かに剣を引き抜く。
銀色の剣身からは、月夜に照らされ輝く紅い雫がポタポタと音を立て流れ落ちる。
それは清らかな水の音にも似ているが、現実は残酷で哀しい汚れた音だった。
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