mirage of story




 
 
 
 
 
「....」



祈りを込めて叫ぶ。
その彼女の声は意識遠退く彼にも届く。


ッ。
感じた微かな反応。

彼は、生きている。











「カイム!」


「.....シエラ、か」




返事が聞こえた。

よかった。
本当に、よかった。

――――。
シエラは安堵と嬉しい素直な気持ちのままに、そのまま彼へとしがみつく。






「――――どうしたの、シエラ....涙なんて流して」



しがみつく彼女の身体は泣いているのか小刻みに震える。


クッと血塗れになった服の端を掴んで自分の身体に顔を埋める彼女に、カイムは薄く微笑み宥めるように背中を撫でた。
憔悴したような弱々しい彼の声が、閑に空気を震わせた。












「よかった.......本当によかった。

心配するじゃない。
こんな血塗れで―――待ってて今すぐに手当てする.....何か、何か血を止められるものは――――」



涙を拭いながら彼女は埋めた顔を上げて言う。







「いい。大丈夫、大丈夫だから」



「大丈夫じゃ、大丈夫なんかじゃない。
こんな怪我....大丈夫な訳無いじゃない。

............一瞬。砂埃が晴れて倒れている貴方が見えたほんの一瞬、死んじゃったのかと思った。
貴方が、殺されてしまったのかと思ったわ」




涙で赤くなった瞳が彼を見る。

その彼女の瞳の中に映るのは血塗れの自分。
彼女の瞳に映るその姿に、カイムは思わず苦笑するしか無かった。







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