mirage of story
――――カツンッ。
音が止まった。
すると部屋に響いていた靴音も必然的に途絶え、部屋の中は静寂な空間となる。
床に落ちた指輪の前で止めた足。
そしてそのまま暫らくの間、指輪を凝視する。蒼い光が瞳に映し出され、揺らめく。
――――ッ。
魔族の王であるその人は、瞳に指輪を映したまま無造作にその場に座り込んだ。
座った拍子に巻き起こった風で、床に溜まった埃が舞い上がる。
舞う埃に少し空気が埃っぽくなった。
だが座り込んだその人は、そんなこと気にも掛けずに指輪を見つめ続ける。
「―――この指輪は決して、欲深き者に渡ってはいかん」
魔族の王であるその人はそう言うと、ゴクリと唾を飲み込む。
気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐き出す。
そしてゆっくり....ゆっくりと、床へと落ちた指輪へ手を伸ばす。
.....ッ。
一回、指先で軽く触れる。
そしてそのままの状態で一瞬止まると、意を決したように指輪をその手で掴んだ。
――――カッ。
指輪を掴んだ瞬間。指輪から蒼色の光が迸った。
先程手にした時とは、また何か違った不思議な力がその人の居る空間を包み込む。
眩しい。そう感じて目を閉じた。
だが、目を閉じても瞼の裏には白い闇。眩しさが目に染みる。