mirage of story
未だに震えが止まらない手の平を、魔族の王であるその人は見る。
埃を被った指輪を持ったその手の平は、少しだけ埃で汚れていた。
「......ッ」
震えの止まらぬ手。
その手の手首を、もう片方の手で掴み震えに無理矢理に抑える。
暫らくそのまま震えていたが、次第に手の震えは治まっていった。
「はぁ....はぁ....」
ただ、指輪を持った。
それだけなのに、手の震えが治まるその時には尋常ではないくらいに汗がその人を濡らしていた。
息も上がり、脈拍も早くなる。
それほどまでに、あの指輪には何か特別な人を魅了し、それでいて強圧する力が在って
魔族の王であるその人も例外ではなくて、完全にそんな指輪の力に飲まれていた。
その人は見つめていた手の平から、視線をその向こうにある床へと落ちた指輪へと移す。
指輪は先程と全く変わらずに、ただ淡く蒼色に煌めいていた。
カツンッ.....カツンッ。
魔族の王であるその人は、一歩ずつゆっくりと指輪の方へと歩み寄っていく。
靴が床を突く音が、密閉されたこの薄汚れた倉庫という空間に響き渡る。
あまり大きくないこの部屋。音は壁や天井で跳ね返って、やけに大きく聞こえた。