mirage of story
『炎竜の宿っておる指輪が世界の何処在るのか、それは我にも分からぬ。だが指輪は、確実にこの世界に存在する。
捜せ。我が契約者よ』
包まれた光の中、そう言う水竜。
そんな水竜の姿が段々と光に紛れて歪んでいくことに、魔族の王であるその人は気が付いた。
「あぁ、必ず捜し出してみせるとも」
歪みが大きくなり、ついに形がなくなり光だけになった水竜に魔族の王であるその人は言った。
見つめていた水竜の蒼い瞳は光となって消えてしまったが、その人はそのままずっとその一点を見つめ続けていた。
姿は見えなくなったが、まだそこに水竜が居る気がして。
『.......最後に一つ、お主に伝えておかねばならぬことがある。
お主と我の契約の証でもある―――それは我が名。
お主が本当に我の力を必要とする時、その時は我が名を呼ぶといい。その時は我が力を貸そう』
水竜の声は先程よりもずっと、何だか遠くに感じられた。
だんだんと小さくなる声。
その声を魔族の王であるその人は、聞き逃さぬよう耳を澄ます。
『よく憶えておくといい。
我が名は―――.....』
―――ザアァァッ。
消えてゆく水竜の声に重なるように、空間を風が吹き抜けた。
風の中で放たれた水竜の名。
その名は風の音に紛れていたはずなのに、やけにはっきりと耳の中に残っていた。