mirage of story
文字から溢れる、これを綴った王である彼の嬉しさ。
そう。
このページに綴られている出来事は、彼の娘が生まれた時のこと。
その喜びは、純粋な父親としての喜びだった。
王の娘。
つまり、次期の王位継承者。
この日生まれたのは彼にとっての第一子。
王位を継ぐのに男女の差は存在しないこの国にとって、生まれた娘の次期の王になることはこの時点で確定していた。
"侍女が私の腕の中に、生まれたばかりの小さな娘を下ろした。
さして障りもないくらいの重みが、私の腕へと伝わる。
娘は私の腕の中で、元気に泣いていた。
赤子は泣くのが仕事。
そう分かってはいたが、泣き続ける娘に私はあたふたして、その様子を寝台の上の妻は笑った。
とても、とても幸せな時だった"
文字の綴られた黄ばんだ紙面の上には、ポツリポツリと文字の黒いインクを滲ませる丸い染みがある。
これは恐らく、涙の跡。
娘の誕生に感極まった彼が、その幸せな光景を思い出し嬉し涙に濡らしたのだろう。
ボロボロ泣きながら、ペン片手にこれを綴る彼。
端から見た従者達は、そんな王の姿は実に情けなく見えたに違いない。
だが、それと同時に微笑ましくもあっただろう。
文面をパッと見ただけでは、ただの親馬鹿な王にしか見えないでもないが、そんなことはなくて彼は歴代の王の中でも聡明な王であった。