mirage of story







言葉を言う最後の瞬間、ロアルの"人"としての意識が彼の闇に完全に飲まれるのをライルは見た。



やはりこの人は、ただの"人"ではない。
今まで彼と接する中の節々でうっすら感じてきたその推測が、確信へと変わった。




得体の知れない何か。計り知れない、秘密。


この人に、ここまで深く関わってはならなかった。
この人はきっと、本当のこの人ではない。

鋭く尖ったそんな直感が、ロアルの胸を貫いた。










「........いえ、俺は貴方についていくと決めましたから。
それが貴方の下した本当の決断なのなら、それが俺にとって正しい決断です。


ただ、それを確認したかっただけです。
.......では俺はこれで失礼します。貴重な時間を邪魔して、申し訳ありませんでした」




だけどもう、ライルは引き下がれない。


深く逃れられない闇。
もう這い上がることは出来ない。

それよりも何より、ライルにはたとえ闇に飲まれようとも果たすと決めた目的がある。
だからもう一層自らこの深い闇に飛び込もう。彼はロアルに闇を感じたいつからかそう何処かで決めていた。




そしてライルはロアルに深々と一礼をすると、そのまま背を向け静かに部屋を後にする。
部屋を去る彼の後ろ姿に、もう何も迷いは無かった。





 
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