mirage of story
この指輪を今渡してしまえば、すべてが終わる。
エルザを死なせたという自責から、解放される。
そう思った。
シエラの心は大きく揺らぐ。
「......その指輪は我々の壮大な魔力を司るものなのだよ」
揺らぐシエラの心。
そこに今まで黙っていたロアルが口を開いた。
「―――魔力を司る?」
魔族の者だけが持つ不思議な力、魔力。
魔力を司るもの。
それを持つ者の魔力を上げ、力の源となる。
だが、これは魔族が持った場合だ。
人間の場合は、その力を発揮することはない。人間にとってはただの物だ。
だから、普通は人間たちは魔力を司るものなど求めない。
魔族の象徴である魔力がつまったものを持つことは、人間の間では忌み嫌われていたから。
(本当に、この指輪が魔力を司るものだとして....どうして私がそんなものを持っている?)
それに、確かライルはこの指輪を『ルシアスの指輪』と言っていた。
(....ルシアス?)
聞いたことのない名。
シエラはさっきライルが言った言葉を、もう一度思い出してみる。
『それはルシアスの....我らの亡き姫の指輪だ!』
(――――亡き姫の指輪)
おそらくルシアスというのは彼等の、魔族たちの姫の名なのだろう。
そしてまた蘇るライルの言葉。
『.......お前が....ルシアスを殺した人間だと?』
ライルはシエラがこの指輪を持っているのを見て、そう言った。
(―――私が....そのルシアスって人を殺した?)