mirage of story
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彼等の運命も、そうだった。

本来在るべき彼等の運命は至極穏やかにその道を歩んでいくはずだった。




平凡という幸せ。
ただ彼等は普通に誰かを愛し愛され、それぞれに生きていく。

ただそんな運命だった。
そのはずなのに。
















たった一人。
たった一人の滑稽で愚かで、そして何より誰もが望んでしまうような哀しい願いが彼等の平凡であったはずの運命を歪ませた。


彼等それぞれの歪んだ運命は、幾重にも重なり縺れ世界の運命をも歪ませた。
世界は、混沌に塗れた終局へと歩み始めることとなる。




















"...................お前の望み、その全てを叶えてやろう"



今から十八年前。
雨振る日に空の闇から聞こえたのは、甘い囁き。

でもまたそれは悪魔の囁き。
世界の混沌への入り口。




願いを、望みを叶えてやろう。
人にとっては、何よりもどんなものよりも甘い蜜。

だがその甘さの裏には、それよりも大きな闇と陰謀がある。
ただ甘いだけものなど、この世界にそんな都合良く存在するわけもない。











"―――お前の望みは何だ?"


甘い言葉に、本能はその裏に潜む闇を感じて警告をする。






"さぁ、言ってみるがいい"



だが抱く望みが強ければ強い程、人はその甘い言葉に狂わされていく。

それが例え決して願ってはいけないことだと分かっていても、世界の理に逆らうことだと分かっていても。














―――.....。

分かっていても、甘い誘惑に勝つことの出来ない人の弱さ。
人は、頷いてしまう。










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