mirage of story
相手を見くびっていたつもりは全くない。
甘く見ていたつもりもない。
こちらは終わらせるつもりで此処にいるのだ。
この長く続く戦争を、魔族の勝利という最高のフィナーレで。
「この戦、俺達には勝つという道しか存在しない!
魔族のため、王のため......そして亡きルシアス姫のため。
何が何でも勝利を掲げるぞ!」
叫ぶ声に、周りの兵達は疲労の中で気を引き締める。
戦況を動かすのは容易いことではない。
だが、これは持久戦。
士気が下がれば、そこから攻勢も守勢も全て崩れてくる。
どちらが長くいかに兵達を生かすことが出来るか。
それが勝利の分かれ道。それまで耐え忍ばなければ、勝機は消える。
...........。
だが思うように士気が上がらない、今の苦しい現実。
「............ロアル様が、こちらに来られれば」
原因は分かっていた。
認めたくはないが、自分の力量の無さが原因だとライルは分かっていた。
指揮を取ってはいるものの所詮ライルは、まだ二十歳にも満たないほんの子供なのだ。
どれだけの実力が有ろうとも、その事実は変わらない。
そんな子供一人に幾千の兵士が従い続けるのには、限度がある。
このような場にはもっと、誰もが従い続けられるような絶対的な存在が必要なのだ。
崇拝する神のような、どんな戦況であっても揺るがぬ絶対的な存在が。
そして今のこの状況。
この場に欠けているのはまさにそれで、この場合の絶対的な存在である魔族達のトップのロアルの姿はこの戦場になかった。
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