あおいぽりばけつ
人の流れに逆らう様に駅へと向かっていると、自分の影が大きな音と共に地面に貼り付けられた。
感嘆の声の中なら私の小さな悲鳴くらい、掻き消してくれる。
パンと弾けた音がして、真昼のように明るくなってまた闇に包まれて。
口元を押さえて泣き出す私の両肩にぶつかる人の群れ。左右に肩を何度も持っていかれて酔ってしまいそうだ。込み上げてきていた胃の中のものが外に出たがりうざったい。
「なんで何にも言わんと着いてくるん。中途半端なんが一番いらんのじゃけど」
酸っぱくなる口の中。私の歩く音に重なるように後ろから音が聞こえる。
立ち止まり口を開くと鼻で笑って、声がした。
「駅まで送っちゃる。最後くらいは優しいしちゃれって和也が……」
怒りに任せて振り向くと、そこには三日月があって言葉が消えた。花火が照らす夜空に浮かぶ三日月は目眩を起こしてしまいそうな程、魅惑的に見えた。
足が勝手に二歩三歩と前に進んで陸の胸板にまた額を当てていた。
口の周りはベトベトで、顔中を汚すのは鼻水か涙か分からない。陸の服に付いてしまう、そんな風に考えたけれど、どうしても今、陸の温もりを感じたくて仕方なかった。
「ねぇ、私陸が好きじゃわ。……気が変になりそうなんよ、陸が好き」
帰ったらお母さんに怒られる。袖も、襟も涙でびしょ濡れだ。顔だって、酷すぎて驚くに違いない。
初めて会ったあの日の様に、私を押したり引いたりする陸の胸板。ひどく落ち着く胸の鼓動。
「こがぁ男、好きになっちゃあいけん」
「でも、でも好きなんよ。……最後とか言わんとって」
癇癪を起こした幼子の様に首を振り火が着いた様に、私は泣いた。そんな泣き声は花火の音と歓声に隠れて、陸の胸板にだけ響いていた。
「初めてじゃなぁのに、重たい女じゃ」
夏が半分過ぎた。
私の《さようなら》は、陸へではなく、望む恋への決別だった。
感嘆の声の中なら私の小さな悲鳴くらい、掻き消してくれる。
パンと弾けた音がして、真昼のように明るくなってまた闇に包まれて。
口元を押さえて泣き出す私の両肩にぶつかる人の群れ。左右に肩を何度も持っていかれて酔ってしまいそうだ。込み上げてきていた胃の中のものが外に出たがりうざったい。
「なんで何にも言わんと着いてくるん。中途半端なんが一番いらんのじゃけど」
酸っぱくなる口の中。私の歩く音に重なるように後ろから音が聞こえる。
立ち止まり口を開くと鼻で笑って、声がした。
「駅まで送っちゃる。最後くらいは優しいしちゃれって和也が……」
怒りに任せて振り向くと、そこには三日月があって言葉が消えた。花火が照らす夜空に浮かぶ三日月は目眩を起こしてしまいそうな程、魅惑的に見えた。
足が勝手に二歩三歩と前に進んで陸の胸板にまた額を当てていた。
口の周りはベトベトで、顔中を汚すのは鼻水か涙か分からない。陸の服に付いてしまう、そんな風に考えたけれど、どうしても今、陸の温もりを感じたくて仕方なかった。
「ねぇ、私陸が好きじゃわ。……気が変になりそうなんよ、陸が好き」
帰ったらお母さんに怒られる。袖も、襟も涙でびしょ濡れだ。顔だって、酷すぎて驚くに違いない。
初めて会ったあの日の様に、私を押したり引いたりする陸の胸板。ひどく落ち着く胸の鼓動。
「こがぁ男、好きになっちゃあいけん」
「でも、でも好きなんよ。……最後とか言わんとって」
癇癪を起こした幼子の様に首を振り火が着いた様に、私は泣いた。そんな泣き声は花火の音と歓声に隠れて、陸の胸板にだけ響いていた。
「初めてじゃなぁのに、重たい女じゃ」
夏が半分過ぎた。
私の《さようなら》は、陸へではなく、望む恋への決別だった。