あおいぽりばけつ
赤い実がひとつ落ちた。それを嬉嬉としてつつく小さな獣を、私は静かに無表情でぼんやりと眺める。
九月の空はどこかよそよそしく感じる。暑さと寒さの狭間で虚ろな目をして私震えていた。
私の毎日から忽然と姿を消した陸。その穴の大きさは少し前の私には想像が出来ない程に大きかった。
「なぁ〜、話聞いとるん?」
気の抜けた炭酸飲料の様な日々。ダラダラと過ぎる日々は何の旨味も無い。
流れる雲と真っ白なスケジュール帳を捲っては戻し捲っては戻ししていると友人が少し怒気を孕んだ声で机を叩いた。
その声と音に気が付いてゆっくりと眼球を動かしながら気の抜けた声で反応する。
「聞いとらんかったわ、ごめん」
「なんなん、あんた夏休みなんかあったん?今日なんか変じゃわ」
友人の口から溢れ出した怒気は瞬時に治まり、次は不安そうな面持ちで私の手を掴む。くるくると変わる表情、思ったままに露わにする感情。同性ながら愛らしいなと頬が緩んだ。
陸との出来事は誰も知らない。
知られたくないと心が言う。
「何も無いよ。ただなんか、……つまらんなぁって」
悟られぬように、誤魔化すようにはぐらかしながら髪に指を通す。
手入れを怠った髪は軋み、指がなかなか滑らない。ぎちぎちと指が頭皮を引きちぎりそうだ。
髪を梳かす事を諦めて、陸が最後に撫でてくれた辺りに手を置いてみると不意に涙がまた零れてしまいそうだ。じっと目を瞑りながら髪の傷みを指に感じて言葉にする。
「……髪、切らにゃならんかなぁ」
「はぁ??勿体ないやん!!一年の時からずっと伸ばしよったんに」
まるで自分の事のように勢い良く頭を振り否定をする友人。
きっと私の愚かな恋を知っても変わらずこうして膝を突合せ話が出来るのだろうと、妙に安心してしまう。
何かが足りないと、梅雨に溜息を吐いた。けれど足りない毎日にはいつだって友人が側に居た。人との距離感の持ち方だとか、仲良くなった後に遣わなければならない気、面倒臭がりで人見知りで不器用な私を高校生活、ずっと隣でサポートしてくれたこの友人は多分きっと、生涯の友に成りうるだろう。
「けどほら、見てみい。枝毛に切れ毛……ぎしぎしじゃ。兎に角やばいけん、スッキリしたいし。んん、やっぱり切るわ」
昔昔、ドラマで見た。
恋に破れて切り落とされた髪。そして鏡に映る新しい自分に感動する主人公。髪を切り、気分が変われば世界が変わる。
まるで別人の様に明るく晴れやかに、それは無理だろうけれど、何か、ほんの少しでいいから視界を明るくしてみたくなった。
傷んだ髪は頬に刺さるように痛い。うざったくて、みっともなくて、でも、本当の事を言えば少しだけ愛おしいとさえ思うから、名残は惜しい。
現実は甘くないと思い知った夏の終わり。きっと何も変わりはしない。それでも私の全身に絡み付く何かを断ち切りたいのだ。
九月の空はどこかよそよそしく感じる。暑さと寒さの狭間で虚ろな目をして私震えていた。
私の毎日から忽然と姿を消した陸。その穴の大きさは少し前の私には想像が出来ない程に大きかった。
「なぁ〜、話聞いとるん?」
気の抜けた炭酸飲料の様な日々。ダラダラと過ぎる日々は何の旨味も無い。
流れる雲と真っ白なスケジュール帳を捲っては戻し捲っては戻ししていると友人が少し怒気を孕んだ声で机を叩いた。
その声と音に気が付いてゆっくりと眼球を動かしながら気の抜けた声で反応する。
「聞いとらんかったわ、ごめん」
「なんなん、あんた夏休みなんかあったん?今日なんか変じゃわ」
友人の口から溢れ出した怒気は瞬時に治まり、次は不安そうな面持ちで私の手を掴む。くるくると変わる表情、思ったままに露わにする感情。同性ながら愛らしいなと頬が緩んだ。
陸との出来事は誰も知らない。
知られたくないと心が言う。
「何も無いよ。ただなんか、……つまらんなぁって」
悟られぬように、誤魔化すようにはぐらかしながら髪に指を通す。
手入れを怠った髪は軋み、指がなかなか滑らない。ぎちぎちと指が頭皮を引きちぎりそうだ。
髪を梳かす事を諦めて、陸が最後に撫でてくれた辺りに手を置いてみると不意に涙がまた零れてしまいそうだ。じっと目を瞑りながら髪の傷みを指に感じて言葉にする。
「……髪、切らにゃならんかなぁ」
「はぁ??勿体ないやん!!一年の時からずっと伸ばしよったんに」
まるで自分の事のように勢い良く頭を振り否定をする友人。
きっと私の愚かな恋を知っても変わらずこうして膝を突合せ話が出来るのだろうと、妙に安心してしまう。
何かが足りないと、梅雨に溜息を吐いた。けれど足りない毎日にはいつだって友人が側に居た。人との距離感の持ち方だとか、仲良くなった後に遣わなければならない気、面倒臭がりで人見知りで不器用な私を高校生活、ずっと隣でサポートしてくれたこの友人は多分きっと、生涯の友に成りうるだろう。
「けどほら、見てみい。枝毛に切れ毛……ぎしぎしじゃ。兎に角やばいけん、スッキリしたいし。んん、やっぱり切るわ」
昔昔、ドラマで見た。
恋に破れて切り落とされた髪。そして鏡に映る新しい自分に感動する主人公。髪を切り、気分が変われば世界が変わる。
まるで別人の様に明るく晴れやかに、それは無理だろうけれど、何か、ほんの少しでいいから視界を明るくしてみたくなった。
傷んだ髪は頬に刺さるように痛い。うざったくて、みっともなくて、でも、本当の事を言えば少しだけ愛おしいとさえ思うから、名残は惜しい。
現実は甘くないと思い知った夏の終わり。きっと何も変わりはしない。それでも私の全身に絡み付く何かを断ち切りたいのだ。