あおいぽりばけつ
「ねぇ……思いっ切りが過ぎるじゃろうて……」

放課後、友人に見送られ飛び込んだ行きつけの美容院から出てきた私を見て、友人は口を大きく開いて呟いた。
手にしたフラペチーノのカップを思わず落としそうになりながら私に駆け寄る。

「私の記憶違いやなかったらあんた、……美容院入る前、胸の下まで髪の毛あったよな」

「そうじゃね」

友人が右手で丁度髪があった場所辺りに手を当てて冷えた目で私を見た。呆れたように大袈裟に息を吐きながら私の肩を片手で揺すぶった。

「ねぇ!!なんで耳たぶギリギリの前下がりボブなっとるん」

「……だって、そうオーダーしたけぇ、逆に耳たぶギリギリの前下がりボブじゃなきゃクレームもんじゃろ」

瞬間、からっと軽い秋風が吹いた。
ずっと髪の下に隠れていた項を風が悪戯に撫でる。擽ったくて、気恥ずかしくて。嗚呼成程、あのドラマの主人公達はこんなに軽やかで晴れやかな気分で前に進むのかと感慨深くなる。

だけど秋風に吹かれた項に見える本音は、あんまり変わらない。
髪を切った事への後悔は無いし、これ以上うじうじもしたく無い。

「成人式あるのにどうすんな!もうあそこまで伸びんかもしれんのよ?馬鹿なん?!」

何に対しての怒りなのか分からないけれど、鼻息荒く言う友人。その言葉を聞いて、自分に言い聞かせるように噛み締めるように呟いた。

「ええんよ、……これで。ええの」

街はいつもと変わらずに忙しなく動いている。
誰も知らない。私がどうして髪を切ったかなんて。私の学生最後の夏、涙に濡れていたかなんて。

納得がいかないと言わんばかりの表情を浮かべる友人に背を向けて歩きだそうとした時、友人が肩を叩く。それすらも、そのタイミングすらも、今は意味がある様な気がするのだ。

「ずっと思ってたんやけど、……あんた失恋でもしたんかいな」

甘ったるいフラペチーノを飲みながら、友人が問うた。街の雑踏に乗じて、聞こえぬ振りをしようとしたが立ち止まって問うた友人の勝ちだ。

二歩前に立ち、私は振り向いた。

あの夏の思い出は、今はもう涙の奥底。隠す事は容易い。涙の底は真っ暗な闇。

きっと海に溶けて、泡になって、消えるだろう。

「してないよ。恋すらしてない」
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