あおいぽりばけつ
「吉岡さん、下の名前何やっけ」
ある日の昼休み。自動販売機の前で悩んでいると後ろから手が伸びて来てチャリン、チャリンと音がした。消えていたランプが全て灯り、早く自分を選べと言わんばかりにアピールする。
「びっくりした……」
その突然の事に驚いて、振り返れば覆い被さるようにコイン投入口に掌を当てる高柳さんが立っていた。
問の答えに困り、そっと横へズレようとすると空いた手で左手を掴まれた。
掴まれた、と言うよりは握られた。そっと、脆いものに触れるように。
「好きなん買い」
握った左手をボタンへ誘導し、私の人差し指を器用に伸ばす高柳さんは確かにモテるのだろう。
耳元で聞こえる低い声は、身震いをしてしまいそうな程に穏やかで色っぽい。
「ありがとうございます……でも悪いです」
「んじゃあ代わりに、下の名前で呼んでええ?」
顔を覗き込まれ動揺して視線を逸らした瞬間、指が滑り普段飲まないブラックコーヒーを押してしまった。苦いなぁ、と味を想像して口がへの字にひん曲がる。
「あかん?」
がこんと取り出し口が鳴った直後にまたコインを入れる音がする。間髪入れずに押されたボタンは少し甘い、私が大好きなカフェオレだった。
「押し間違えたわ。交換してくれん?」
屈託のない笑顔でどれだけの女を虜にしてきたのだろうか。スマートな立ち居振る舞いに人当たりの良い性格。陸とは真反対だ、そんな風に思ってしまう自分が情けない。
「伊織です」
差し出されたカフェオレを受け取り、真っ黒の缶を差し出した。汗をかいた缶は皮膚を弱く刺激する。冷たさを捕まえて「ありがとうございます」と頭を下げた。
「ええ名前やね」
見上げた高柳さんの目に映る私は、下手くそな笑顔を浮かべていた。綺麗な瞳に、私が映り込んでしまう事が、とても申し訳なく思う程に。
社会人一年目、私は陸を未だに忘れられないみたいだ。
ある日の昼休み。自動販売機の前で悩んでいると後ろから手が伸びて来てチャリン、チャリンと音がした。消えていたランプが全て灯り、早く自分を選べと言わんばかりにアピールする。
「びっくりした……」
その突然の事に驚いて、振り返れば覆い被さるようにコイン投入口に掌を当てる高柳さんが立っていた。
問の答えに困り、そっと横へズレようとすると空いた手で左手を掴まれた。
掴まれた、と言うよりは握られた。そっと、脆いものに触れるように。
「好きなん買い」
握った左手をボタンへ誘導し、私の人差し指を器用に伸ばす高柳さんは確かにモテるのだろう。
耳元で聞こえる低い声は、身震いをしてしまいそうな程に穏やかで色っぽい。
「ありがとうございます……でも悪いです」
「んじゃあ代わりに、下の名前で呼んでええ?」
顔を覗き込まれ動揺して視線を逸らした瞬間、指が滑り普段飲まないブラックコーヒーを押してしまった。苦いなぁ、と味を想像して口がへの字にひん曲がる。
「あかん?」
がこんと取り出し口が鳴った直後にまたコインを入れる音がする。間髪入れずに押されたボタンは少し甘い、私が大好きなカフェオレだった。
「押し間違えたわ。交換してくれん?」
屈託のない笑顔でどれだけの女を虜にしてきたのだろうか。スマートな立ち居振る舞いに人当たりの良い性格。陸とは真反対だ、そんな風に思ってしまう自分が情けない。
「伊織です」
差し出されたカフェオレを受け取り、真っ黒の缶を差し出した。汗をかいた缶は皮膚を弱く刺激する。冷たさを捕まえて「ありがとうございます」と頭を下げた。
「ええ名前やね」
見上げた高柳さんの目に映る私は、下手くそな笑顔を浮かべていた。綺麗な瞳に、私が映り込んでしまう事が、とても申し訳なく思う程に。
社会人一年目、私は陸を未だに忘れられないみたいだ。