あおいぽりばけつ
揺れる赤い実は弾けない。
それをじっと見て、私は一寸先を思い出す。
「そっか〜、吉岡さんもそろそろ成人式か」
社会人としての自覚が少し芽生えてきた。
朝の駅のホーム、セーラー服を着て談笑する女生徒を見て胸が少し苦しくなるのは老いのせいだろうか。
あの頃の私は、とちょっと前を思い出してはっとする。
「振袖はもぅ決めとるん?」
「はい、着付けの予約も早いうちにしてるんで」
職場の先輩や同期とも少しずつ打ち解けて、楽しく話せる様になっていた。学生時代の友人とはなかなか時間が合わず少しばかり疎遠になってしまっていたが忙しさに追われる日々でそんな事を気にしてなどいられないと思い、なんとか楽しく生きている。
「振袖姿見せてや」
ブラックコーヒーの香りを引き連れて高柳さんが口を開いた。瞬間、周りにいた先輩達は呆れたように笑って席を離れる。
いつの間にか、私と高柳さんが付き合っているのでは、と噂されるようになっていた。否定をするのもなんだか違う気がして、黙りを貫き流していた。
「じゃあ今度写真見せますね」
進展は無くとも、滲む好意を知らん振りも出来ないでいた。
着かず離れず、ただ休みが合えば遊びに行ったり、ご飯を共にしたり、共有する時間だけが増えていた。
「生で見たい。市民ホールでやるんだろ?少しだけで良いから会いたい」
「でも、同級生とかたくさんいるしなぁ……」
高柳さんがずいっと私のデスクに近寄り言うから、首を斜めに傾げて誤魔化そうとした。
「いけん?一瞬でいい!!」
ふと過ぎる、陸の顔。
陸がどの校区だったのか、私は知らない。
OKともNOとも言えないのは、胸が無性にざわざわするのは、陸に会えるかもしれないと期待しているからなのだろうか。
「会えるか分からないですよ」
絞り出した答えは曖昧。
「いいよ、俺、待つの得意じゃし」
屈託の無い笑顔で高柳さんは言う。普通なら寒い台詞なのに高柳さんが言えば胸の裏側が浮き上がりそうになるのだ。
何気なく共に過ごすうちに、心が少しだけ傾きかけているのかもしれない。私には勿体ない位の男性。そんな男性が私を好いているなんてこれ以上無い幸せなのでは、と思うようになっていた。
「伊織ちゃんの晴れの日だしプレゼント用意しなきゃやね」
「そんな事したら高柳さんの事無視しちゃいますよ」
上手く笑えなかった私が、少しずつ自然に笑えるようになっていた。意識をせずに、だ。高柳さんの瞳に映る私は、ごく自然に笑えていた。
「そんな事させんよ。嫌でも見てしまうって言わせてやるわ」
「なんですかそれ!じゃあ楽しみにしておこうかな」
寒くなってきた。
高三の夏から止まったままの時間が動き出すのは、あとどれ位だろうか。息が白くなる。手が悴み赤くなる。セピア色になっていた日々に色がつき始めた。
それをじっと見て、私は一寸先を思い出す。
「そっか〜、吉岡さんもそろそろ成人式か」
社会人としての自覚が少し芽生えてきた。
朝の駅のホーム、セーラー服を着て談笑する女生徒を見て胸が少し苦しくなるのは老いのせいだろうか。
あの頃の私は、とちょっと前を思い出してはっとする。
「振袖はもぅ決めとるん?」
「はい、着付けの予約も早いうちにしてるんで」
職場の先輩や同期とも少しずつ打ち解けて、楽しく話せる様になっていた。学生時代の友人とはなかなか時間が合わず少しばかり疎遠になってしまっていたが忙しさに追われる日々でそんな事を気にしてなどいられないと思い、なんとか楽しく生きている。
「振袖姿見せてや」
ブラックコーヒーの香りを引き連れて高柳さんが口を開いた。瞬間、周りにいた先輩達は呆れたように笑って席を離れる。
いつの間にか、私と高柳さんが付き合っているのでは、と噂されるようになっていた。否定をするのもなんだか違う気がして、黙りを貫き流していた。
「じゃあ今度写真見せますね」
進展は無くとも、滲む好意を知らん振りも出来ないでいた。
着かず離れず、ただ休みが合えば遊びに行ったり、ご飯を共にしたり、共有する時間だけが増えていた。
「生で見たい。市民ホールでやるんだろ?少しだけで良いから会いたい」
「でも、同級生とかたくさんいるしなぁ……」
高柳さんがずいっと私のデスクに近寄り言うから、首を斜めに傾げて誤魔化そうとした。
「いけん?一瞬でいい!!」
ふと過ぎる、陸の顔。
陸がどの校区だったのか、私は知らない。
OKともNOとも言えないのは、胸が無性にざわざわするのは、陸に会えるかもしれないと期待しているからなのだろうか。
「会えるか分からないですよ」
絞り出した答えは曖昧。
「いいよ、俺、待つの得意じゃし」
屈託の無い笑顔で高柳さんは言う。普通なら寒い台詞なのに高柳さんが言えば胸の裏側が浮き上がりそうになるのだ。
何気なく共に過ごすうちに、心が少しだけ傾きかけているのかもしれない。私には勿体ない位の男性。そんな男性が私を好いているなんてこれ以上無い幸せなのでは、と思うようになっていた。
「伊織ちゃんの晴れの日だしプレゼント用意しなきゃやね」
「そんな事したら高柳さんの事無視しちゃいますよ」
上手く笑えなかった私が、少しずつ自然に笑えるようになっていた。意識をせずに、だ。高柳さんの瞳に映る私は、ごく自然に笑えていた。
「そんな事させんよ。嫌でも見てしまうって言わせてやるわ」
「なんですかそれ!じゃあ楽しみにしておこうかな」
寒くなってきた。
高三の夏から止まったままの時間が動き出すのは、あとどれ位だろうか。息が白くなる。手が悴み赤くなる。セピア色になっていた日々に色がつき始めた。