あおいぽりばけつ
「忘れ物無い?」

「ん、携帯持った、財布持った、……大丈夫!」

慣れない振袖、これでもかと塗りたくり違和感のあるリップ、白いファーに付かないかと気にして痛くなる首筋。

「伊織、こっち向いて」

玄関の扉に手を掛けると母が呼び止めた。

「笑ってみ」

急に言われて笑いがこみ上げる。ベタなやり取りをしたいのか、母も意外と可愛いところが有るじゃないか。そんなに私の笑顔が見たいのか、それもそうか。だって娘の晴れの日なのだから、と微笑むと母が呆れて首を振る。

「歯に口紅ついちょったらダサいやろうからって見たかったんよ。なんよ、その唇!焼肉でも食うたんかいな!」

母の言葉を聞き、顔が能面のように力無く垂れてしまう。口を大きく開き歯を見せると、隅から隅まで舐めるように見られて肩を叩かれた。

「大丈夫!ついちょらん!普通!……嘘。……伊織、綺麗よ。成人おめでとう」

先程までいつもの明るい母だったのに、少し涙ぐむから込み上げるモノがある。ひたすらにカメラを連写する父に見送られて私は市民ホールへと向かった。

吐く息が白い。
祖母に貰った黒い革の手袋を太陽に重ねて白い息を吹き掛ける。

この手袋が似合うような強い大人になろう。

陸への想いも今日限りにしてしまおう。

でも、出来るなら、一目見れたなら。

抑えられぬ高揚感を胸に私は一歩踏み出した。
澄んだ空気の下に広がる青い海を眺めて、大きく息を吸い込んだ。帯の締め付けがキツくて思うように吸い込めなくても、心が浄化されていく。

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