あおいぽりばけつ
走りにくい振袖。人混みを掻き分けて走る。

「すいません、通して下さい、すいません」

泣いてはならないと思えば思う程、喉が締まり声が思うように出ない。掠れる声で必死に叫ぶ。そんな私を訝しげに睨む新成人の群れ。掻き分けて、掻き分けて、私は叫ぶ。
陸がこの会場に居るかなんてわからない。でも、きっとあの後ろ姿は、あの青黒い髪は、陸だ。
確かでは無い。でも、分かる。あれは陸なんだ。

「陸!!!」

ありったけの声で叫ぶと、もっと向こうで青黒い髪が揺れた。
振り向いたのは、会いたくて会いたくて仕方のなかった陸だった。封印していた褪せた思いが即座に色付く。そして強く香る、梅雨の雨上がりの香り。

いつもより念入りに厚く厚く塗ったファンデーションが涙を弾いた。ぽろりぽろりと弾ける涙。

「……陸」

涙を流す私を見て、すっと目を細めて陸がこちらを見据える。
久方振りに見つめられて胸がじくじくと疼いた。
また、足が鉛のように重くなり歩けない。近付くことも遠ざかることも出来ない私を見て、陸は溜息を吐いた様に見えた。
そして肩を組んでいた友人に何か耳打ちをしてこちらに歩み寄ってきた。

一歩、近付いてくる度、息の仕方を忘れてしまう。頭に血がのぼり、頬が火照り涙が止まらない。

私の前まで歩み寄り、立ち止まった瞬間立ち込める陸の香り。
髪を切ったあの日、最後に香った陸の香りは今も変わらない。その些細な事実に、また泣けてきた。
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